前回の投稿で述べた「真の客観描写など存在しないし、本来的に絵は客観的現実世界をかつて一度も表象などしていない。」ということに関して、平尾ケイゴの作品は象徴的であると思う。

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 我々中年には、この立体が「矢吹丈」のラストシーンであることを瞬時にして理解できる。いや、「理解」という言葉は適当でないのかも知れない。「瞬時にして読むことができる」のである。それは如何してなのか。
 よくよく考えてみれば「矢吹丈」は現実ではなくマンガのキャラクターであり、それも平面に描かれたものである。そしてこの立体作品の画像(平面化)と比べても共通要素はあまりない。というより殆ど無いのである。顔やヘヤースタイルも似ていないし、プロポーションもマンガとは異なる。しかし、これは「矢吹丈」であり、そう読めてしまうのだ。
 あまり似ていないのにそう読めてしまう、あるいはこの作品が持つ異様な存在感は、やはり「矢吹丈」の存在感として重なってしまう、そうしたことがこの作品の一つの魅力になっている。

 上の文言に関していうならば、この作品には「矢吹丈」と読める要素がそれ自体に備わっており、その要素はある程度の幅があるということだろう。たとえば、同じ漢字一字にしても人それぞれの癖により異なっているが、意味として読めるというように。つまり、この作品は客観描写とはまるで異質なものであり、多くの人の共有される「読める要素」が内在し、その要素が一つの共有世界を形作る。そしてその世界は少なくともリアリティと同義の「客観的世界」と呼ぶべきものではないだろう。 

 又、平尾ケイゴの作品のユニークなところは、その素材である。ダンボールで継ぎ接ぎされることによってモデリングし、それに着彩されている。プラスティックや鋳造ではないというところから、絵としての要素が増し、不思議な空間を創出している。

平尾ケイゴ個展「ダンボールアートの世界」

2011年3月31日[木] - 4月5日[火]
12:00-19:00(最終日18:00まで)

ANTIQUE belle 2F(http://antiquebelle.com
京都市中京区姉小路通御幸町東入丸屋町334 
TEL/FAX: 075-212-7668

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