大阪市の近代美術館建設が30年越しにやっと青写真が出来、2017年のオープンを目指して2014年に着工するという。整備費を122億円に縮小したとはいえ、大阪市の構想する近代美術館は本当に必要なのか。
 大阪市は天王寺の大阪市立美術館や大阪市立東洋陶磁美術館、サントリーミュージアムを持ち、それに予定地の近隣には国立国際美術館もある。これは橋下大阪府知事が言う無駄な二重行政の見本ではないか。

 6日付け朝日新聞関西版によれば、大幅に計画が遅れてはいるものの、平松市長はこの建設をあきらめてはおらず、「又、ハコモノかという批判は承知しているが、それをはねのける効果がきっとある」と訴えるのは大阪の新しい観光の目玉になると踏んでいるからだという。はたして、この構想が大阪の観光やあるいは、産業の振興に役立つのだろうか。

 4500点の大半が収蔵庫に眠っているというコレクションについて、国立国際美術館の前館長で京都芸大の建畠晢学長は「その質と数は全国の公立美術館では最高レベル」と太鼓判を押すという。その太鼓判故、建物さえ出来れば国内はもちろん、東アジアからの観光客も引き付けるだろうと、大阪市の関係者は期待し、又、「コレクションはターゲットにしている中国、台湾、韓国などの人たちの趣味に合う」と言うのは花沢隆博観光企画担当課長である。
 そして彼の見通しによれば、9年後には市内に泊まって観光する外国人は延べ690万人になり、買い物や飲食で1700億円を使う勘定になるという。いずれも09年の4倍以上の数字だと同新聞は続ける。
 しかし、建畠晢学長はその昔、洋画家和田義彦氏の絵画盗作問題の折、それとは気付かず、彼に芸術選奨を与えてしまった審査委員に名を連ねておられたのではなかったか。

 その彼が太鼓判を押し、又、そうしたデーターは何処から引っ張り出したかは知らないが、中国、台湾、韓国などの人たちの趣味に合うというコレクションとは以下の作家たちである。

  大阪市立近代美術館建設準備室と国立国際美術館が主催している展覧会「中之島コレクションズ 大阪市立近代美術館&国立国際美術館」の近代美術館建設準備室側の出品者リストには、アンドレ・ドラン、モーリス・ユトリロ、ジョルジオ・デ・キリコ、アメデオ・モディリアーニ、キスリング、マックス・エルンスト、マリー・ローランサン、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、コンスタンティン・ブランクーシ、アルベルト・ジャコメッティ、佐伯祐三、ジョーン・ミッチェル、マーク・ロスコ、ケネス・ノーランド、フランク・ステラ、モーリス・ルイス、チャック・クロース、ジャン=ミシェル・バスキア、リチャード・エステスとある。

Saeki

Photo

 これらは佐伯を除いて、153億円かけ追加購入したといわれる約1000点の近現代の西洋美術の内の目玉作品だろう。コレクションは寄贈された実業家の、山本コレクション、50数点の佐伯祐三を軸にモディリアーニやダリ等約1000点が買い足されたという。

 この購入の選択は、まるで美術を理解しない大金持ちが、画商、目利きの勧められるまま購入したような、個性やこだわりの無い品揃えであり、単なるステータスシンボルのようだ。
 そして西洋のブランドを有難がり、その文化を踏襲しようとする明治期以来の美術官僚達の趣向性が引き継がれれているようだ。中国、台湾、韓国などの人たちの趣味に合うというのは、自分達の嗜好性を元にそうした想定を勝手にしているだけではないのか。

 そして、ここには日本の文化を世界に発信するという観点が全く欠落している。

 近代美術館建設準備室の構想や大阪市行政評価委員会大規模事業評価部会の答申を見ても、現代日本、あるいは関西、大阪の文化芸術を世界に発信し、それを世界に売り込もうという発想が全く見えてこない。
 彼らの美術館構想の基本は、第一に府民や市民の教育、啓蒙が挙げられる。(西洋の一流とされる美術を見て教養を身に付けこれに従え、という相も変らぬお題目だろう)第二には観光の振興。これにより宿泊、流通小売業、飲食店等が潤う。第三に美術館建設による周辺の土地の活性、オフィスビルや企業の誘致となる。この発想は80年代美術館などが各地に乱立し、その多くに実が付かなかったという、まさしくハコモノ事業の繰り返しではないのか。

 商都大阪の美術館構想に最も重点を置くべきは、まさに80年代に欠落し、機会を逃したソフトの部分。此処から世界に日本の文化芸術を発信するということであり、此処に確固とした世界をターゲットとする文化、芸術市場を構築するということではないのかと思う。

芸術の援助の問題に関しては「芸術と経済」に

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