Photo
無題1

Photo_2
無題2

 上の絵は以下の方針に従い描こうとしたものである。

 ①現実の如何なる物の再現であってはならない。
 ②記憶にある具体的な何かのイメージであってはならない。
 ③何も語らないし意味が付随してはならない。
 ④それでいて何かインパクトを与えるもの。

 この方針は言うまでも無く、この項で取り上げている「感覚の作用」なるものを踏まえてのことである。
 しかし、絵を描くということが表現という脳のアウトプットである以上、この方針を貫くのは眞に難しい。白いスケッチブックを前にして、描こうとするものは絶えず脳内にある何かのイメージ、あるいは観念であり、そこにはどうしても意味が付随するのだ。
 従って、上の方針を遵守し最初の描線を入れるのは、オートマティズム(自動書記)のようなものにならざるを得ない。

 無題1において、最初に4本の垂直線を無作為に引き、それを2本の水平線で繋げてみた。それに無作為にトーンを付け、点を打っているうちに、期せずしてそれは次第に四つ足の動物、あるいは人体に見えてきたのだ。図像自体が私の中で四つ足の動物、あるいは人体に繋がったのだ。
 この繋がりを絶とうとバックに鋭い線を施す内、出来上がったのがこの絵であるが、後になって画像で見ると、バックの鋭い線は有機的な毛髪の類に見えないでもない。言ってみれば映画「リンク」のテレビモニターから這い出す貞子のようなイメージだ。少なくとも私において、このイメージの連関の強度が事後、益々増加している。

 この段階で上の方針からは逸脱しているのだが、私は決して貞子を意図していた訳ではない。恐らく、図像が四つ足の動物、あるいは人体に見えてきた時点で無意識の内にそうしたイメージを次々に繋げ、方向付けてしまったのかも知れない。つまりある到達点に向かいどんどん描き進めていくということだ。そしてそのことに気付き、そうした繋がり、方向性を絶とうと最初のオートマティズムに立ち戻ろうとする。しかしこうしたせめぎ合う二つの振幅のうち、果たしてどちらが本当のオートマティズムかという疑問が生じるのだ。

 無題2では、最初に無作為に三つの円を描き、その円を4本の線で繋げてみた。そして意識の上ではあくまで無作為に描き進む内、無題1での有機的な鋭い線が与えるインパクトが残っていたのだろう、あるいはこの項で取り上げたムカデやゲジゲジの人間が無条件で忌避する形という話(仮説)が影響したのかも知れない。有機的な黒い繊維の束を描いていまったのである。
 こうした要因において、この三つの円は事後、私の内である一つの意味と期せずして繋がってしまっている。

 それはカビの生えたジャガイモである。私は数日前、台所でカビの生えたジャガイモを見つけてしまったのだ。マッシュポテトを作ろうと思い、そのまま忘れてしまい長時間放置してしまったのである。

 この場合においても私はジャガイモを描こうとしたのではない。そしてこの場合、描き終えた時点ではジャガイモとは結びつかなかった。しかし今にして、どう見てもこの三つの円のテクスチャーはジャガイモではないか。そして黒い繊維はカビに見えなくはない。あるいはこの絵はカビの生えたジャガイモを見つけた時の衝撃の無意識的記憶を包含しているのかも知れない。今にして私にはそう思えるのだ。

 ここで言えるだろうことは、偶然に現れる図像のディティールのある配置、あるトーンが作り手の意識的な意図とは関係なく、人間のある記憶と結びつくということだろう。そしてその記憶が意識されようがされまいがに拘らず、描画における一つの方向性を齎すのではないか。このことを逆に辿れば、人間の記憶とは、ディティールのある配置という大きな幅を持ったイメージとして収納されているのではないかということだ。

 以前「臨画、罫画のススメ」で取り上げた発達心理学のリュケやガードナーの「発育の5段階」における見解によれば、幼児が身体的殴り描きをする内に、その描いた線描から現実のものの形の類似点を見出し、その起点において幼児は現実のものの形へと興味が開け、写実的段階へと進んでいくという。
 しかしこの見解は非常に短絡的であると思う。なぜなら、この時、幼児が描画から発見する現実のものの形とは一体何なのかということだ。それは写真のような視覚記憶なのか。リュケやガードナーはそう言いたいのだろうが、そこには実在する現実とそれを再現した絵という頑固な二元的構図が貫通している。
 絵あるいは図像とは、単に何かを写し再現しただけのものではなく、絵あるいは図像自体が現実を構築する人間の意識活動に深く係わっているという気がするのだが…。

図像の意味作用 http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/04/post-8c07.html
図像の意味作用(2)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/05/post-ecc9.html
図像の意味作用(3)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/05/post-eaf6.html
図像の意味作用(4)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/05/post-7e61.html
図像の意味作用(5実践)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/05/post-f32c.html

美術ブログランキングに
参加しています
他メンバーのブログはここからどうぞ
どうぞよろしく…

にほんブログ村 美術ブログ 美術鑑賞・評論へ
にほんブログ村