Photo

 上の画像はいわゆる立体写真です。
 上部の二つの黒い点が重なるよう、左右の目を調節すると写真に奥行きが現れ、急須と湯呑みの位置関係がはっきり解ります。
 この画像は平行視で見えるよう作っており、右の写真は右目が、左の写真は左目がそれぞれ捉えることにより奥行きが知覚されます。

 この原理はステレオスコープや3D映画などと同じであり、これらは一様に人間の目の機能に則り作られています。

Photo_2

 人間が物を見る時、対象物を頂点とし、それに左右の目の間隔(成人で平均7cmと言われています)を結んだ底辺からなる二等辺三角形が想定できます。つまりこの時、見えた対象物は見る方向が若干異なった二つの像から成り立っていると言え、そしてこの左右の目が捉えた若干異なる二つの像を、目の機能ににより一つに纏めるのです。この纏めることを「融像」と言います。そしてこの融像された時点で奥行きが知覚されるのです。

 従って上図のステレオスコープの場合、左右の図はそれぞれ若干異なっています。その違いとは、左右の目の間隔約7cmを底辺とする二等辺三角形の頂点に本来あるはずの対象物を左右の目がそれぞれ捉えた若干の違いに則しているです。

 上の立体写真もそのようにして作りました。この二等辺三角形の右目と左目の位置から頂点にある対象物を狙い、つまり若干異なる方向からカメラで撮ったのが二枚の写真です。そしてその二枚の写真を平行視により融像すれば奥行きが現れるのです。

 言いたいのはここからです。
 上のそれぞれの写真と、それを融像した時に現れる奥行き感とは本来的にどんな関係があるのかと言うことです。
 それぞれの写真とそれを融像して現れる像とを比べれば、かなり異質だと思います。二つの写真からまるで違ったものが生じたという印象です。

 知覚される奥行き感自体は、それぞれの二枚の写真の何処を探してもありませんし、それに二枚の写真の微妙な違いも消えうせ、例えば真ん中の湯のみから延びるお盆のアウトラインの角度も二枚の写真の中を採ったという感じであり、正に二つを融像したという言葉通りです。

 又、二枚の写真の奥行き、つまり急須と湯呑みなどの位置関係は言葉で説明可能です。たとえば重なりや大きさの比率、テーブルのアウトラインの角度などの遠近法的説明です。しかし融像で生じた奥行き感は感じるのみでそれを言葉で説明出来ません。ただただ、急須は手前にあり湯呑みは奥に見えるとしか言いようがありません。
 この違いは明白であるし、そしてこの明白に感じることのできる奥行き感は何処からやって来たのかが問題です。

 私は光学的現象であり物質である二枚の写真自体には、それを融像して生じる奥行き感という要素は一切持っていないと考えます。そこにある簡単な条件を与え、それを融像すると二枚の写真が本来持っていなかった要素を目の機能が、あるいは脳の機能が新たに作り出すということでしょう。その作り出す要因は写真の方には無く、つまり目や脳が二枚の写真を下敷きにして新たなものに作り変えるということだと思います。

 そして先にも言いましたが、この平行視による立体写真やステレオスコープ、3D映画はこうした我々の目や脳の機能に則って作られているのです。つまり、その機能とは我々が普段、ものを見るということにおいて働いている機能だということです。

 何が言いたいのかと言うと、リアリティーという概念の在り処です。リアリティーとは「現実。実在。又、現実性。真実らしさ。」と訳されています。そしてこの言葉には、現実に実在するこの世界を受容、感受する主体という構図を含んでいます。
 しかし我々が見た対象物は、その対象物自体の持つ要因とは関連が無いところで、目や脳の機能により作りかえられているとするならば、リアリティーというもの自体大いなる幻想ではないかということです。
 少なくとも、両眼視差による二つの視覚情報の融像による奥行き知覚が、現実に実在する世界の様相をそのまま現しているとは到底言えないということです。つまり我々が見て感じる奥行き感は、現実世界(リアリティー)が持つ様相ではなく、脳が作り上げた様相だということです。

関連記事
リアリティーについて 
http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/06/post-0991.html
リアリティーについて(2)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/06/post-993b.html
オリジナリティーについて(1)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/06/post-93ff.html
オリジナリティーについて(2)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/07/post-8895.html
オリジナリティーについて(3)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/07/post-0e39.html
オリジナリティーについて(4)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/07/post-36a7.html
リアリティー、オリジナリティーは有効か?(1)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/07/post-4aa6.html
リアリティー、オリジナリティーは有効か?(2)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/07/post-5445.html
リアリティー、オリジナリティーは有効か?(3)http://manji.blog.eonet.jp/art/2012/07/post-f4d1.html

美術ブログランキングに
参加しています
他メンバーのブログはここからどうぞ
どうぞよろしく…

にほんブログ村 美術ブログ 美術鑑賞・評論へ
にほんブログ村