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 前回に引き続き、再び平行立体視です。前回と同様に上部の黒い丸が重なるよう左右の目を調節して平行視をおこなってください。五つのマルが浮き出て、それらの前後関係が解ると思います。

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 数字の順番が五つのマルの位置関係です。つまり上段右端のマルが一番手前にあり、上段真ん中のマルと下段左のマルが一番奥になります。

 又、今回は写真ではなく、シンプルなイラストです。従って重要なのは、このイラストそのものには立体視で現れるような前後関係の情報や要素は一切持っていないということです。ただ、二枚のイラストのマルの位置が左右に若干ズレているだけです。

 このズレは我々が物を見る時の両眼視差に対応しており、この二枚のイラストを、つまり右目と左目の情報を融像することによって奥行き感という前後関係が立ち現れるのです。従ってこのズレを変えることによりマルの前後関係は如何様にも設定できます。

 繰り返しますが、このシンプルな二枚のイラスト自体には、立体視で立ち現れるような前後関係という奥行き情報や要素は一切無いということです。右目と左目の情報、つまり二枚のイラストを融像することにより、イラストには本来存在しなかった奥行きの要素を我々の脳は新たに付け加えたということでしょう。
 我々の脳はシンプルなイラストをベースに、全く新たな視覚世界を構築したと言っていいかも知れません。

 すなわち脳はこうした機能を持っているということです。そしてこの機能は普段我々が日常的に使っている機能でもあるのです。つまり日常的に知覚する物の前後関係や奥行き感の殆どは、両眼視差により脳が構築する視覚世界から来ていると言っていいでしょう。

 例えばテーブルの上に置いてある携帯電話が鳴ったとします。そして携帯電話に目が行きます。この時、テーブルの上の携帯電話を見るということは、右目が見た携帯電話と左目が見た携帯電話(厳密には携帯電話のある一点)という二つの異なる視覚(左右の目の間隔、約7cmから同時に同じ対象を見るのだから二つの視覚は当然異なります。これが視差です。)を脳が一つに纏めること、つまり融像することであり、この融像された時点で自分との距離感、奥行きを伴った視覚が立ち現れます。つまり上記の二枚のイラストによる立体視と同じ原理です。
 この距離感は他の視覚情報が絶たれていても可能です。例えば真っ暗闇の中で光る携帯電話を見ても、自分との距離感は立ち現れます。

 そして少なくとも、このシンプルな二枚の現実に存在するイラストと、それを融像する(見ること)ことにより脳が作り上げたイラストは、様相において一致していないということです。つまり、ここから示唆されるのは、この視覚される世界とは、実在する世界を正しく反映しているのか、イコールであるのかという疑念です。

 リアリティー(現実。実在。又、現実性。真実らしさ)という言葉と意義は、何時頃からあるのか知りませんが、リアリズム(写実主義)が「現実をそのまま表現すること」であり、絵画におけるリアリズムが視覚に依拠している点で、視覚される世界、見えた通りの世界がリアリティー(現実。実在。)であるということに繋がったのではないかと思います。そして見たままの世界が普遍に実在する世界であると我々は考え勝ちです。

 しかし、二枚のイラストによる立体視に当てはめて考えるならば、我々が両眼で見るこの世界は、両眼視差より脳が作り上げた、あるいは新しい要素を付け加えた、結果の世界ということになります。そしてこの結果の世界は実在する世界とはイコールではないということになります。少なくとも両眼視差による奥行き感を伴う視覚世界は脳の創作であると言えるでしょう。

 そしてここから導かれるのは、そもそも普遍に実在する世界、…リアリティーとはそういった意味を含んでいると思います。…という概念自体の根拠の問題です。リアリティーとは本当にあるのか。幻想ではないか。そしてそれは何処からきたのか。…と、言うことです。

 かつて我国ではリアリティー(現実)とは「現(うつつ)」という意義を持つ言葉で指し示されていました。つまり、現実とは実在するものではなかったのです。

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