美工作品展は京都市立銅駝美術工芸高校の生徒達による展覧会であり、この学校の源流を辿れば、京都市立芸術大学の源を一にする1880年(明治13年)創設の京都府画学校に遡る。京都府画学校の設立は東京美術学校設立の7年前であり、フォンタネージ、ラグーサらの指導による日本最初の美術教育機関であった工部美術学校設立の4年後というすさまじい伝統を持つ。
 そして恐らく、銅駝美術工芸高校の美術教育の根本理念は元始創設以来、一貫して、ブレず、そしてその根本理念が永い年月を経て、古来の創作原理を駆逐し、日本の美術教育のスタンダードを勝ち取るという、憂うべき西洋モダニズム美術の布教の原点が考古学的資料のごとくそこに垣間見えるのではないかということだ。

 作品展の奥まったエリアに基礎表現と称する鉛筆による風景や静物などのデッサンが数多く展示されている。このデッサン類の精度と力の入れようたるや尋常ではなく、当高校の教育理念の何たるかが伺える。…というのは、そこにフォンタネージが持ち込んだデッサン技法、写真のような写実という、透視技法を彷彿とさせるからである。恐らく、フォンタネージ率いる工部美術学校の授業もこうであったに違いないと…。

 入学した生徒の全員は一年間こうした訓練に励む。そして次の年から漆芸や陶芸を含む各専攻分野に進むというのである。つまり、漆芸や陶芸を含む美術工芸の表現は、こうしたデッサンが基本であるという理念なのだ。
 その基本理念は言い換えれば、創作とは現実に実在する客体を主体が再現描写することだとする西洋近代二元論である。もっと言えば、現実に実在する客体とは、主体が視覚する像、視覚像に他ならず、その視覚像を如何に正確に描写するかが創作の基本となる。これが透視法でありフォンタネージが日本に持ち込んだ石膏デッサンによる訓練の目的である。

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基礎表現実習の様子 京都市立銅駝美術工芸高校H.Pから転載 

 こうした創作原理はかつての日本には存在しなかったし、ましてや漆芸や陶芸は西洋近代二元論とは一切関係がない。かつての日本の絵や工芸の創作原理は「写し」であり、それは基本的にお手本を写すことにより創られてきたのだ。これは過去の技法研究の資料により導き出せるし、人間の脳機能の研究資料によってもそれを補強することが出来る。つまり、視覚像を対象とし、それを描写するということは人間の脳機能を逸脱する行為なのだ。
 若い人にこうした行為、つまり視覚像を対象とし、それを描写するという石膏デッサンや基礎表現と称するそれに類する行為を強いることを一刻も早く止め、かつての「写し」原理に戻すべきである。…というのが私の主張であり願望だ。
 人間は今も昔もお手本、あるいは記憶にあるお手本を対象に絵やモノを創るのである。(「石膏デッサン試論」参照)

 しかしながら日本の美術教育は、一方を未開の業であると駆逐し、もう一方をスタンダードとして定着させてしまった。西洋近代美術を深い考えもなく受け入れてしまったのである。…というか、美術教育に携わる専門家集団によって変更させられてしまったのである。よくよく考えれば西洋近代美術がかつての日本の芸術とあらゆる点で対立すると解るのにである。これがブレない根本理念を継承する西洋モダニズム信奉の原点というべき美工作品展を見ての感想だ。

 そして銅駝美術工芸高校の客体である視覚像を正確に描写するという根本理念は、その視覚像を主体の個性、オリジナリティを持って変形(デフォルメ)させるということで理論付けされ正当化させていく。いわゆる個性の重要視の到来である。
 そして今や、そうした美術教育は一般化し、我々は物心付くか付かない内にそうした美術教育に晒され、刷り込まれていくのだ。その根拠になっている山本鼎の自由画教育運動や発達心理学のリュケの発達五段階説も西洋モダニズム美術の信仰の上に成り立っている。絵とはこういうものであると…。(「臨画、罫画のススメ」参照)

 しかし実質的に人間は西洋モダニズム美術の理論なんかには当てはまらない。幼児に紙とマーカーを与え、好きなものを自由に描いてごらんと言ったならば、子供は記憶にあるマンガやアニメのキャラやツールを描くのである。そういうものだ。私も幼い頃、アトムや鉄人28号、それにそこに登場する宇宙船や戦闘機を空で描いたし、娘もそうだった。大学生だって自由課題を与えれば何人かは必ずドラエモンなんかをモチーフに選ぶ。つまりそれは記憶にあるお手本を描くという人間の本来的機能に即した「写し」の原理に他ならないのだ。

 そして不思議に思うことは、自治体なんかが主催する幼児・児童を対象とする作品展に、そうしたマンガやアニメのキャラが一切登場しないのは何故なのか。一枚もそういったものが無いのは不自然ではないか。
 うがった見方をすれば、教育者が信じる個性的な西洋モダニズム美術教育というものに反する、マンガやアニメのキャラというお手本を描くことを、子供達に静かに諌め、排除し、美術とはこういうものですよと誘導しているのではないかということだ。

美工作品展2012年10/4~10/7 京都市幼児・児童・生徒作品展9/26~9/30
いづれも京都市美術館

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