「まか通」K様

 遅くなり、ご迷惑をおかけします。500文字を圧縮するのは難しかったので新しく書き直しました。1行41文字にすると36行になり文字数ブランクも含め、1476文字になります。尚、教授のご要望通りできる限り断定をさけました。どうぞよろしくお願いします。                        岡田

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 私が従事する金箔の仕事は、日本における仏具や漆器、甲冑などの伝統的工芸を土台とするものですが、この仕事が制作過程において、私の思う美術と如何に異なるかを述べたいと思います。今や異なるどころではなく、対立するとまで考えるに至りました。   
 そしてこの対立が、恐らく、伝統的工芸という仕事を素材、技術において守り保存すべきものという考えに帰着する主要な原因ではないかと考えています。         
 考えてみればこれは不思議な話です。人がものを作るにあたって、二つの異なるもの…これを創作原理といえるかと思いますが、…があるということがです。        
 それというのも、私は金箔の仕事を始めた同じ頃、絵描きを志しました。いわば二足のワラジです。最初はオーソドックスな油彩でしたが、その二つの仕事にかかわり、その世界に精通するに付け、創作の原理が対立しぶつかるということに気付いたのです。つまり二つの仕事を誠意を持ってやろうとすればする程、私個人の中で乖離が起こるのです。それぞれの制作にあたり、それぞれ異なった制作原理に基づかなければならないのです。それも対立する制作原理です。これは切実な問題でした。               
 それは集約すればオリジナリティーの問題であると言えるでしょう。オリジナリティーとは唯一性とか独自性と訳されると思うのですが、美術の世界ではこれが非常に重要視されていました。もし他人の作品に似ていれば、盗作だとか真似をしたとか言われてしまいます。現代美術という枠組みにおいてはそれが一層顕著でした。つまり美の創造は個人のオリジナリティーによって担保されなくてはならないのです。

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 しかし伝統的工芸の世界では違っていました。美は個人が一人で作り出すものではなかったのです。作品の美は過去の美に基づきます。従って金箔の仕事において重要な勉強は、過去の作品を出来るだけ見ることであり、そこから受け継がれた美を美として感受することです。従って美術の世界であれだけ重要視されるオリジナリティーという考えは伝統的工芸の世界では何処を探しても見当たらないばかりか、唯一性とか独自性とかは恐らく、奇を衒うという言葉に言い換えられ、否とする要素になるのです。

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 これが一人の人間の中にある対立する二つの創作原理です。私は始めの頃は私の中において美術…これは近代美術だと思うのですが…が優勢であり、そして過去の美を踏襲すること、あるいはお手本を真似ることなどは過去の遺物で、それを継承する伝統的工芸は特殊な分野として保存されるべきものであると考えていました。しかし美の創出において二つの対立する原理があるなどそもそも変な話ではないですか。そしてこの創作原理の変換は明治期に西洋の近代美術の導入を期に成されました。それ以前は伝統的工芸の持つ創作原理が芸術一般の創作原理であったとされる研究もあります。画においてさえ粉本や画帳の写し、つまりお手本の写しにより成されていたのです。「写し」の文化です。    
 今、私はもう一方の「写し」の創作原理に傾きつつあるのですが、しかし少なくともこうした二つの創作原理の仔細な検証が必要ではないかと考えています。そして本来的には伝統的工芸の単なる素材や技術の保存継承ではなく、美の創出にかかわる創作原理が何より重要ではないかと思っています。 

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