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 長野久人は永らく陰陽五行説をテーマに作品を作っている。今回の「五虫・オーバーラップ」と題された展示はその一環である五虫シリーズが展開されている。

 五行説とは古代中国において万物は「木・火・土・金・水」の要素から成り、すべての自然現象はこの要素に対応するという。  例えば方位であるとか、色であるとか時間、曜日や季節、味覚や臓器、疾患、生と死、あるいは感情、又は惑星など、そして生息する生き物の種と対応するのが五虫である。

 五虫とは鱗を持った魚や爬虫類に対応する「鱗虫」。羽を持つ鳥などの「羽虫」や獣の「毛虫」。貝類や亀などの「甲虫」。そして人間に対応する「裸虫」の五つであり、この場合の虫とは昆虫のことではない。  そして「鱗虫」「羽虫」「裸虫」それに「毛虫」「甲虫」の五つはそれぞれ「木・火・土・金・水」に対応し、そしてそれに関連する自然現象全てに対応しているのだという。

 彼の作品が持つ非西洋的な、呪術的な、あるいは儀式的、神秘的で何か遺伝子を刺激する魅力を脇に置いた上でだが、彼の五行説についての説明はピンとこないし作品と繋がり難い。それはこの思想が西洋の思想に置き換わって以来、我々の脳裏からすっかり忘れ去られているせいだろうと思う。  しかしこれを書いていて気が付いたのだが、「木・火・土・金・水」の五要素は、意識されずとも断片的だが我々はしっかり受け継いでいるのではないかということだ。  それは惑星の呼び名であり曜日において顕著である。

 この思想が生まれるのは紀元前300年前後とされているが、当時観測されていた惑星に「木・火・土・金・水」が関連付けられ木の星、火の星、土の星…と充てられていた。そして曜日としての木曜、火曜、土曜…となる。そして恐らく、現在の呼び名はこの五行説に対応しているのではないか。

 明治の近代化に伴い、太陽暦が取り入れられ、太陽と月が追加され7曜になる。太陽がSunで月がMoonでsunday、mondayになり、この場合、新しく追加された日曜、月曜は英語の概念とぴったり重なる。近代化の産物だ。しかし火星はMarsであり火曜日はTuesdayなのだ。そしてマースはローマの軍神であり、テュールはゲルマンの軍神だという。つまり我々の火星と火曜は火に関連付けられシンプルに繋がっているのに対し、英語では軍神ということで惑星と曜日は繋がるのかも知れないが、しかし呼び名で指し示される対象は別物であり、それに少なくとも火とは直接の繋がりは無い。このことは後の要素である木星、土星、金星、水星にも同じように当てはまる。

 これは我々が存在する物や現象を指し示したり、思い描いたりする場合、同じものであったとしても根源的な意味合いや現出する印象は西洋とは異なるということなのだろう。西洋においては木星、土星、金星、水星は木、土、金、水ではないのだ。  西洋とは異なり、火星と火曜は火で繋がっており、そしてその繋がりの原初は五行説なのだ。これは意識に上がらないかも知れないが、確かにそういうことだ。

 彼の仕事は文献を調べ、その原理に従い、自分の感ずる色や質感、あるいはフォルムに一つ一つ繋げてゆき、これを意識化する作業なのかも知れない。もしそうならこれは至って重要な仕事だと言えるだろうし、私の最も共感するところだ。

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 長野はかつて色んな素材で胎児を作っていた。胎児は「裸虫」であり、「土」に属し、五色では「黄」であり方位では中心に位置する。そしてこれは自分自身だという。

 その胎児の一つが今、私の工房の3.5坪ほどの庭にある。それというのも、五月の連休に今まで放置して7〜8mまで伸び、生い茂った木をチェーンソーで伐採したのだが、その時庭に枯山水を作ろうと思い立ったのだ。木が無くなり庭は明るくなりご近所の迷惑を解消できたのだが、その分神秘性が失せ、殺風景になったからだ。それに枯山水造園は継承すべき日本の文化であるし、又、その多くは伝統産業同様、凍結保存され、現代的枯山水を作らねば、と、そんな不遜なことを考えてしまった。

 五行説は都市建設に深い繋がりがあるし、あるいは造園においてもだ。風水だ。流れる水の源泉である深山に見立てるものを何か提供してよと長野さんに言うと、彼は「どんな塗装をし直してもいいから」と、これを提供してくれた。  現在二度目の塗装で、五行説にかかわるキーワードを入れてみたが、耳なし芳一みたいだ。

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長野久人個展「五虫・オーバーラップ」は2014年6月3日から6月15日まで
ギャラリーはねうさぎ(京都市)で開催されました。

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