脊椎動物の色覚の進化を研究する東大教授、河村正二氏によると「色」は物質にあるのではなく、又、光線にあるのでもなく、それは脳によって作られるのだという。

 「空はどうして青いのか」という質問に対し、太陽からの光は大気とぶつかり、短い波長の青が多く散乱するから「空は青く見えるのだ」というのは殆ど答えにはなっていない。それはある短い波長の光は何故青く見えるのかということが何も答えられていないからだ。  もし、青い光というものが基より存在し、その青い光の性質が赤い光と比べ、波長が短いとする事実があるならば話は別だが、どうもそういうことではないらしい。

 網膜の奥には桿体、錐体と呼ばれる二種類の視細胞があり、桿体は明暗(トーン)を錐体は色覚を受け持つという。視細胞が光を感じ取るにはタンパク質であるオプシンという視物質とレチナールという色素の組み合わせでなされ、想定される動物の様々な色覚の違いは視物質オプシンの感受性のバリエーションにおいてもたらされるという。

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 人間には光の波長の感受性の異なる3種類のオプシン、つまり3種類の錐体、L(ロング)M(ミドル)S(ショート)の三色型色覚であり、それぞれの興奮による脳への電気信号の比率において光の波長の区別、つまり色(RGB=赤緑青の比率)として区別される。波長だけではなく桿体の明暗情報を含めると数百万種類の色(波長)を見分けることができるという。

 ミツバチなどの昆虫も視物質オプシンを用いた三色型であるが、その感受性は全体に短波長側に寄っており、650nmの人間でいえば緑領域から300nmの紫外線領域をカバーする。鳥類はL・M・S・VS(ベリーショート)の四色型であり、理論上ミツバチより範囲と精度が高く、魚類となると複合四色型で鳥類より精度が高いという。

 イヌやネコなどの多くの哺乳類はL・Sの二色型であり二種類のオプシンの感受性だけで光の波長、つまり色を区別、あるいは作るのだから魚類や鳥類、昆虫、人間と比べても色数は少ないだろう。この二色型は人間でいえば赤緑色盲に相当するという。

 ここにおいても「空はどうして青いのか」という質問に対し、ある短い波長の光はどうして青く見えるのかという答えとはならないが、しかし視物質オプシンの感受性と効用が、それを用いる総ての生命体とある程度一致すると仮定するなら、少なくとも「青い光というものが基より存在し、その青い光の性質が赤い光と比べ、波長が短い」という前提は崩せるだろうと思う

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 ミツバチの光の波長の受容は人間と比べ、全体に短波長側に寄っている。このことは人間が感知できない紫外線領域を彼らは感知できると同時に、我々が感知できる青領域は感知できないとなる。
 そして先の仮定でいえば、彼らが見る空は我々の「青」ではないだろう。又、イヌやネコなどの多くの哺乳類が見る空は、M(ミドル)領域が無い分、我々が見る青とは異なるだろう。鳥類や魚類にしてもそうだ。そしてそのことはそれぞれの個体に対してもいえるかも知れない。「色」は物質にあるのではなく、又、光線にあるのでもなく、それはそれぞれの脳によって作られるのだということを。

 かつてリアリズムを信奉し、愛したが故、「青い光というものが基より存在し、その青い光の性質が赤い光と比べ、波長が短い」という事実とするものを、あるいは実在とするものを、その在るがままを感知し表現できない自分の不備を嘆き、つまり色盲であるということに絶望し、自死したT君を想うにつけ残念でしょうがない。

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参考サイト
「色」は光にはなく、脳の中にある

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