2016年9月22日から10月2日にかけて、兵庫県篠山市で開催された「俳句×美術 IN 篠山」展のオープニングイベントとして、ライブ俳画を試みました。私としては二度目の試みです。即興での作句揮毫は早瀬淳一、画は岡田、司会は長野久人で約40分の動画です。尚、小倉喜朗×林伸光の新バージョンはこちらです。


 ここで是非、提示しておかなければならないのは、この試みは単なる座興やアトラクションではないという私の思いです。
 この企画、つまり俳句と美術のコラボレーションという展覧会企画に誘われた時点から、このライブ俳画の試みが脳裏にありました。それには大よそ二つの理由があります。
 又、コラボの相手が俳句であり、会場が美術館や画廊ではなく、小学校や民家であるということ、そして参加メンバーが豊富なキャリアを持つ、バリバリの現代美術家と現代俳句を駆使する先鋭の俳人たちだということです。
 このシチュエーションは現代美術の在り方にかねてより疑問を感じる私を刺激し、この試みの二つの理由を誘引させます。

 一つは江戸期まで続いて、その後廃れた書画会の再現と、その様式の現代への接続とその可能性の確認です。

 当時、寺や民家を会場とし、そこに書家や絵師、観客が集い、酒肴を楽しみながら、客と作家の双方向、即興の元、芸術の制作、展覧、販売流通を担っていました。それが書画会です。そしてそれが成立するのには、個を超越した会場全員の共有が必要です。そしてライブ俳画において、その一つの共有は、過去という膨大な時間によって形成された意味性や微妙な心の動きを持つ言葉や句、季語、言い回しの組み合わせにより創出されます。それと全く同様に、俳句に呼応する画自体も、過去からの形成物の組み合わせであるということにおいて、それらは…この場合で言えば…俳画は個を超越しているのです。

 二つめは、この書画会という様式が廃れたという歴史的経緯に関係するものです。その原因は主に西洋近代美術がもたらした、個の過剰な優位性にあります。
  そこにはリアリズムという、かつて日本にはなかった考え方が起因し、近、現代美術のベースとなっています。
 リアリズムとは簡単に言ってしまえば、個々の意識に関係なく、世界は厳然とそして不変的に実在するという考えです。この考えにより、不変の世界に対峙する個の意識との関係として「ものと言葉」「物質と精神」「客観と主観」「作品(もの)とコンセプト(言葉)」、あるいは主観が客観を正確に記述する「写生」「スケッチ」等々の主客二元論が派生します。

 例えば下図は、参加作家の最年長である美術家、麻谷宏の、丸い鉄製の容器に水が張られ金属粉が浮かべてあるという作品ですが、この作品は俳人、小倉喜朗の句「虫の音も蜥蜴のしっぽもない夕べ」に呼応するといいます。
 これなど、「もの(作品)とことば(俳句)」二元論の典型だといえ、作品は実在する世界に属する「もの」だから、もの自体は「ことば(俳句)」と直接の共有はあり得ない…あるのはそれを作った作家のコンセプト…となるのでしょう。又、この展覧会で長時間を費やしたプロジェクト「ものと言葉」もその名通りの区分けであり、あるいは俳句の近代化を為した正岡子規の「写生論」を現代俳句が疑わないのもそうした流れでしょう。


Photo

 一方、ライブ俳画にはそうしたリアリズムの要素は全くありません。記憶、あるいは思い描く言葉(俳句)とそれに呼応する、やはり記憶にある画の組み合わせによって外部世界を提示するのです。
 俯瞰すれば、ここには大きく異なった二つの世界があるといえます。
 リアリズム世界においては、実在する不変世界を個々が如何に捉え、それを如何に記述し、再現するのか、あるいは新たな発見や自分なりの表現を如何に構築するのか。
 一方の世界では、長時間かけて形成された言葉や画により…つまり概念により世界を規定し、世界を創出する。そのことは言葉や画の変遷において、…つまり概念の変遷において世界の意味することや様相が変化するということであり、それは世界は不変ではなく、絶えず流動するものという、大きく異なった二つの世界があるといえます。

 言うに及ばず、この二つの異なった世界という矛盾は、近代化という名において、…書画会が葬られ、リアリズム世界が採用された如く、一方が採用され、一方が破棄された訳ですが、このかつての判断が正しかったかどうかを私は問いたいのです。参加者全員がそうだとは言いませんが、近代以降の動向を全く疑わない、バリバリの現代美術家と現代俳句の先鋭たちにもう一つの世界を提示したかったのです。
 これが二つめの理由です。この私の思惑が成功したかどうかは、動画を観る各個人に委ねたいと思います。

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